鳩頭の空中散歩

万年筆事始め

万年筆にどハマりして半年で結構揃ってきたので、この辺りで独断と偏見に満ちた事始めをツラツラと垂れ流すために死蔵していたアカウントでブログを開いてみた件

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 履歴書を書くのに極細ボールペンでもちょっと厳しかったので、カクノのEFを買ったのが最初。
もともと共通の趣味が多かった上司とオタク談義に花が咲き、モンブラン #032とシェーファー タルガ #1006Xを譲ってくれたのが沼の入り口。いきなり本格モデルのモンブランを使えるようになったのが運の尽きということで、これから万年筆に手を出してみる人に独断と偏見で語ってみたい。

最初の1本

 パイロットのカクノやプラチナのプレピーは実売1000円もせず、最初の1本としてメーカーも力を入れている。だが敢えてここら辺は避けよう。なぜなら、これらは「万年筆の形をした何か」でしかない。本格モデルはこれらとは桁違いだ。また、店頭で箱入り販売されているカクノはまだマシだが、ハダカ販売されているモデルはどういう扱いをされているか分からないので危険だ。ひどい店だと、ペン先が曲がっていた。
 「本格モデルと入門機は全く別物」「店頭ハダカ在庫は危険」の2点から、最初の1本こそショーケース入りの本格モデルを買うべきだ。

国産 VS 外国産

正直、どっちだっていい。どっちでもいいので、それぞれのオススメを考えてみる。

国産

 国産3大メーカー、すなわち、プラチナ・セーラー・パイロット。その他に大西製作所などバックヤードビルダー的なメーカーはあるが、全ての製品が限定モデル扱いで入手性にやや難ありなバックヤードビルダー製品よりも、定番モデルがいつでも手に入る大手メーカー製の方が最初の1本としては安心だ。プラチナ・セーラー・パイロットはそれぞれ書き味が異なるのだが、書き味も何も、最初の1本はその違いを認識していない状態なので、書き味で選ぶことは不可能。なので独断と偏見でオススメを選ぶ。

 いわゆる「万年筆らしさ」を最も顕著に感じさせるのがプラチナ。別の意味で「万年筆らしい」のがパイロット。何のことだが分からない? ああ、自分でもどう言えばいいのか分からない。
 「万年筆」のイメージそのままなのがプラチナの金ペン先。「ボールペンとは明らかに違う」のがパイロット。セーラーは良くも悪くも印象がない。ただし変態ペン先、てめーは別だ。
 一般的に、インクの出が良い(フローが良い)のがプラチナで、パイロットはフローが絞り気味でペン先の味が出やすいと言われる。フローに関しては一般の評価通りだと思う。この結果どういうテイストを感じるかというと、パイロットの書き味は「気色悪い」のだ。念のため、褒め言葉である。

パイロット PRERA

 万年筆はペン先の材質(金・ロジウム合金・ステンレス)によって書き味が異なるのだが、パイロットの万年筆は材質による書き味の差が小さい。差があることはあるのだが、ベクトルが同じなので、低価格のステンレス製のペン先でも「気色悪さ」を存分に感じることができる。ただしカクノはパイロットのペンとしては異質で、ボールペンからの移行に不安を感じさせないためか、あの独特の「気色悪さ」が影を潜めたチューニングがされているように思う。それもあって、最初の1本に敢えてカクノをお勧めしない。
 「気色悪い」を連呼する理由を語らなければただのディスだ。というわけで。
 接地感の希薄さ。これが私が感じるパイロット の万年筆の独特の気色悪さの正体だ。細字でも見た目で分かる他社製に比べて大きめのペンポイントによって実現されるのは、ボールペンでは味わえない紙面上の滑り感。また、ペンの先端の裏面の一見して見えない部分からインクが出ているというのは一種の不安感で、「ペン先のここからインクが出ている」というのが明確に見えるボールペンと大きく違うところ。この、ボールペンとは明らかに違うそこはかとない不安定感を最も強く感じることができるのがパイロットのペンである(断言)。金ペン先は滑りのぬらぬら感がステンレスペン先よりも強く紙面との抵抗感がより希薄なので、余計に不安感を煽る。これを魅力と捉えるか、言葉通りに気持ち悪いと感じるかで、パイロットの評価は大きくわかれる。パイロットの書き味が普通ではないことを知るために次の1本が欲しくなること請け合いだ。万年筆を長い趣味としたければ最初に持つべきメーカーだろう。ある程度本数が揃って他と比べるようになると、手放せない愛用か死蔵かのどちらかになる。ペン先の材質による書き味の差が比較的小さいことから、廉価なステンレスニブモデルから入りやすいのもお勧めできる理由だ。
 ちなみに私は、文字通り気持ち悪いのに耐えられず、使用頻度は低い。デザインが個人的に好きなモデルが多く、つい買ってしまうのだが。

 では、パイロット製品の最初の1本としてお勧めを考えてみる。書き味の特徴は前述した通り。書き味以外に目を向けると、パイロットはラインナップが豊富で品質の安定感が高い。工作精度が高く、嵌合式のキャップの吸い付くような感覚は特筆ものだ。低価格帯モデルからこの精度が味わえる。海外製はこの辺りが割と雑で、日本製品らしさを感じるのもパイロットの良いところ。なかでもPRERAのキャップは磁石でも仕込んであるのかと思うくらいキャップの嵌合感が素晴らしい。これが3000円クラスである。この価格帯だと当然ステンレスニブだが、前述の通りステンレスでも金ニブと同じベクトルの書き味を堪能できる。

 というわけで、PRERAをお勧めの最初の1本としたい。軸色は白。太さは中字。PRERAには透明軸でコンバーター内蔵の「色彩逢い iro-ai」というモデルがあるのだが、ここは不透明軸の白をインクカートリッジで始めてみよう。クラスとしては本格モデルとは言えずショーケースに入っていることはあまりないが。
 白を勧める理由は、白色軸のモデルは数あれど首軸まで白いモデルは案外珍しい。なので、将来的に本数が増えてもかぶる可能性が低い。中字が良いのは、国産万年筆の細字は細すぎるから。漢字文化な日本では細いペン先の方が使い勝手は良いが、中字でも十分メモ帳に記入できる。万年筆独特のインクの色合いや字の太さの変化を味わうには、国産ペンでは中字が最低限だ。フローが渋めでペンポイントが大きめのパイロットのペン先は、ペン先を研ぐことでいくらでも細くできる。逆はできないので、ここは中字で。また、カートリッジで始める理由は、カートリッジを使い切るかどうかが万年筆ライフを続けられるかどうかの試金石になるからだ。インクの色は好きなものを使えばいいが、青を勧めたい。パイロットの青はヨーロッパ系のロイヤルブルーとは違い、しっとりとした緑味を含んだ色だ。日本製品ならではの湿度高めの色は体験する価値がある。また、染料インクとしては異例の耐水性の高さという実用的な特徴がある。

 カートリッジを使い切ると、コンバーターに挑戦してみよう。パイロットには「色彩雫 iroshizuku」という全24色の詰め替えインクがある。好きな3色を選べるセットはお勧めだが、ボトル3色を収めるケースは最近モデルチェンジされ紙製の箱になった。¥700/1本、3色セットのケース入りで¥2,100、すなわちケース代はタダなんて商売になってんのか不安になるようなケースだったので、モデルチェンジはやむを得まい。ケース代を取っていいからあのケースのままでいて欲しかったと思う。15mL入りのボトルはオシャレで、これも商売になってんのか不安。実際、儲けはほとんどないらしい。
 パイロットには「無敵のコンバーター」と言われる大容量を誇るcon-70というコンバーターがあるが、残念ながらPRERAには内蔵できない。PRERAに内蔵できるのはcon-40という容量0.4mLのものだ。con-40で好きな色の色彩雫を使うにあたり、洗浄が必要になる。ここでペンの洗浄を習得しよう。con-40は容量が少なすぎるので、カートリッジでそれなりに使えるようになっていればあっという間に使い切るようになっているはずだ。使い切る度にインクを取っ替え引っ替えも良い。その度に洗浄という手間暇をかけることで万年筆ライフを楽しんでみよう。ちなみに、色彩雫はどの色も耐水性は皆無で、筆記物の保存性を気にする場合は使わない方がいい。

外国産

 筆者がパイロットスキーなのは薄々分かっていると思うが、何が何でもパイロット推しというわけでもないので、外国製のペンで最初の1本として何を勧めようか考えてみる。うーん、案外難しい。よく勧められるのがラミー サファリだ。ラミーはラミー2000という鉄板の定番ボールペンが有名だが、サファリは入門用万年筆としてやはり鉄板とされる。が、サファリの実物を見てみるといい。あれは「クリップがついて値段が3倍のカクノ」でしかない。ていうか、首軸の三角形の造形など、カクノが入門モデルとしてサファリに追随したというのが正しかろう。筆記感も、ガチニブでボールペンライクで、万年筆感が希薄だ。というわけで、サファリは外そう。毎年限定色が出るなどファッション性が高いので、コレクターズアイテムとして手を出すのは悪くない。

ペリカン M200

 ペリカンのM200を推したい。ペリカンにはスーべレーンという本格モデルが存在するというか、スーべレーンシリーズこそペリカン製品だが、スーべレーンシリーズの廉価版であるM200を最初の1本として勧める。スーべレーンはM400/M600/M800/M1000というモデルがあるが、大きさが違うだけだ。「だけ」だが、軸の太さや重さが万年筆の書き味に占める要素は非常に大きいので、それぞれ全く異なる性質を持つ。数字が大きいほど太く重い。M1000は実物を見るとちょっとビビる。M200はスーべレーンシリーズ最小のM400のステンレスニブモデルだ。ペン先がステンレスなだけでお値段は3分の1。それでもPRERAの5倍の値段だが、所有感はそれに応えてくれることは保証しよう。M200のステンレスニブは金ニブの意義を疑うくらい素晴らしいペン先だ。インクフローは豊富な方で、テイストはプラチナ的でパイロットのような気色悪さは無く、気にいるか気に入らないかは賭けという博打感は無い。安心材料と見るか平凡と見るかは、自身の性格の鉄火要素次第。軸色は完全に好みでいいが、M200はほぼ毎年限定生産品が出るから、欲しくなったタイミングで気に入った軸色があればそれでいい。後々かぶる心配はほぼ無い。逆に、気に入った限定生産品に巡り会わなければ入手を逃してしまうのが欠点。
 ペリカンの万年筆の特徴は、ピストン吸引式がメインモデルであること。カートリッジモデルもあるが、スーべレーンは全て吸引式でM200も吸引式。インク内蔵量が多いことが吸引式の利点で実用性が高い。何より、吸引式は本格万年筆の証でもある。吸引式は内部機構がメカメカしいので、デモンストレーターと呼ばれるスケルトンモデルがよく映える。が、下手するとオモチャっぽく見えてしまうので、完全クリアや軽い色は避けたい。内部機構が見えるか見えないかという絶妙な色がお勧めだ。2017年限定生産品のスモーキークォーツは珠玉の軸色だった。
 ペン先は細字を選ぼう。外国製万年筆のペン先の太さは国産より太く、細字で国産の中字と同じか、下手すると太字に及ぶ。ペリカンは外国製にしては細い方で、細字が国産の中細程度のちょうど良い太さ。インクフローは良いが、シャバシャバに水っぽい色彩雫でも十分実用に耐える。色彩雫の中でも「紅葉」は色変化が大きく、紙に乗せた直後から刻々と変化して乾くと全く異なる色合いになるが、本当の意味で色変化をするのは古典ブルーブラックだ。詳しい説明は省くが、古典ブルーブラックを供給し続けているのはペリカンだ。なので、ここはペリカン純正の古典ブルーブラックで使いたい。最初の1本として真の正統派本格モデルを手にするのであれば、PRERAよりむしろM200を断然お勧めする。

2本目を選ぼう

 を考えてみようと思ったが、長くなったし飽きたので、気が向けば次の投稿で。