鳩頭の空中散歩

万年筆事始め(その2)

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万年筆事始め - 鳩頭の空中散歩
で、最初の1本はどれがいいかなーで力尽きたので続きを今回

最初の1本

パイロットスキーとしてパイロット プレラか、お高いけど本格派としてペリカン M200を挙げた。軽くおさらいすると

パイロット プレラ

 ボールペンとは明らかに違う「気色悪さ」を廉価なステンレスニブでも存分に体感できる筋の通った変態メーカーとしてパイロット、中でもキャップの嵌合感の脳汁ダダ漏れ感が3000円級のそれでは無いという理由でプレラ推し

ペリカン M200

 吸引式という本格万年筆の証を備え上級モデルとほぼ同じ佇まいを漂わせながら、ニブがステンレスというだけで大特価、しかもそのニブの出来が非常に良く万年筆感を実感するに十分なM200

 以上が、独断と偏見に満ちた推しペンである。
 M200については、2本目でもいいかなーと思う。諭吉さん出動価格なので、最初の1本としてはやや敷居が高いのは否めない。が、早いうちに手にしておく1本として断然お勧めする。

2本目を選ぼう

 改めて。
 最初の1本でインク交換とペン先洗浄を経験し習得していることを前提とする。
 この段階で2本目を手にするとすれば、これはもう金ニブ以外無い。上にあげた二つはどちらも十分万年筆らしさを味わわせるが、本格派はやっぱり違った!ということを知るのはやはり金ニブでだ。金ニブとなると途端に値段が跳ね上がるので、国産モデルがお勧めとなる。外国製の金ニブの値段は初心者にとってはもはや法外だ。ていうか国産万年筆の値付け、弱すぎると思うよ正直。プラチナの社長も言ってるけど。それに、1000円万年筆に触れたからと言って次に本格モデルに移行してくれるかというと、それは甚だ怪しいと思う。特にカクノの場合、ボールペンから移行して「これでいいや」と思わせる完成度の高さがその原因であったりするのが皮肉だけど。入門モデルが本格モデルの入り口になっていないのが万年筆の闇だったり。でも入門機が無ければ触ってすらもらえない。それは一眼レフカメラでも同様なので別に万年筆に限った話ではない。

プラチナ センチュリー #3776

 プラチナの社長が言っているからってわけではないが、2本目としてはプラチナのセンチュリーシリーズをお勧めする。
 国産3大メーカーにはそれぞれメインストリームの製品ラインがあるが、センチュリーはプラチナのメインストリームだ。限定生産品は30,000円級だが、ベースモデルなら10,000円クラス。舶来品に比べると断然安いが、14Kニブはもちろん、日本製はこうだよねと唸る工作精度の高さや、スリップシール機構というステキメカを装備する。
 最初の1本として挙げた2モデルは、ベスト型という軸とキャップの両端が平らな形のデザインだ。ベスト型を好む人は多い。私もベスト型の方が好きだ。一方、一般に万年筆として多くの人が思い浮かべるのはモンブランのマイスターシュテュックだろう。
https://www.montblanc.com/ja-jp/collection/writing-instruments/meisterstueck.html?=undefined
 これはバランス型というデザインだ。センチュリーは、ぶっちゃけマイスターシュテュックもどきである。だが、デザインはともかくその書き味はモンブランに勝るとも劣らない。特に細字の繊細さはモンブランの雑とも思える太さとは比べ物にならない。また、ドイツに本拠を構えていた頃のモンブランは確かに最高の実用品であったが、リシュモングループに降ってからは親会社により「モンブランのペンは実用品ではなく装飾品である」と言われる始末。天冠に輝くホワイトスターは超高級品の証でもあり、こんなペンを若いもんが持ち歩いていたりしたら「生意気だ」とか抜かしやがるオジサマが実際にいたりするので、実用性の点からもクソオヤジのウザ絡みを除ける意味でも、モンブランは避けたい。
 というわけで、2本目としてモンブランもどきながら自己主張の無い、それでいて性能は超一級のセンチュリーを断然推しとする。
 細かく見ていこうか。
 黒軸・金トリムというのが、いわゆる「仏壇デザイン」というド定番だ。しかし、ここは地味に徹しよう。黒軸・銀トリムだ。個人的には、黒軸・銀トリムはベスト型の方がマッチすると思うので、バランス型は仏壇にしたい。が、腐ってもモンブラン、マイスターシュテュックはいずれ手にしたい1本であるので、かぶり避けという意味も込めて。また、センチュリーはカラー軸やデモンストレーターも豊富だ。ほぼ毎年出る限定生産品は、値は張るが日本の風土や気候を表現したしっとりとした素晴らしいモデル揃いで、金トリムが欲しければ限定生産品で手にするのも良い。私はセルロイド軸のキンギョに一目惚れしてお迎えしたが、赤と白のセルロイド軸に金トリムは筆舌に尽し難く美しい。
 地味に徹したのは、万年筆を日用筆記具として常用するための布石でもある。どこで胸ポケットから取り出してもとにかく嫌味がない。同じ系統でセーラーのプロフェッショナルギアがあるが、プロギはベスト型なのでプレラとかぶる。それに、セーラーの真骨頂は変態ニブなので、もう少し後でいい。残念ながら変態ニブは受注停止状態で再開未定だが。
 ニブは細字で、と言いたいところだが、国産万年筆の細字は細すぎるし、プラチナの万年筆の書き味はとにかく繊細なので、インクフローの良さを味わうためにも中字で使いたい。1本目のパイロットの中字との書き味の違いを味わうにも、中字が良いだろう。プラチナの金ニブの書き味が嫌いという人はまずいないだろうから、ここでパイロットを気に入るかどうかを判断することもできる。

3本目は

 これ以降は「好きにしろ」としか言えない領域にきているはずだ。オークションでヴィンテージに手を出すもよし、ラミーのイヤーモデルを揃えるもよし。
 個人的に、手持ちのモデルからこれは良い!というものを挙げておく。

シェーファー タルガ

 シェーファーは現在でも高級筆記具メーカーの一角をなしているアメリカのブランドだが、一世を風靡した「インレイニブ」のかっこよさは異常。現在のラインナップでは「レガシー ヘリテイジ」がインレイニブを装備しているが、インレイニブと言えばタルガだ。本国では普及モデルだったということで、国内でも流通量は豊富でオークション相場もそれほど高くない。インレイニブはサスペンションはほぼ皆無のガチニブで、その書き味は「ぬらぬら」とも「サリサリ」とも違う、あえて擬音化すれば「キュキュッ」とした感じの不思議な書き味だ。インク出すぎ問題と感じるくらいのフローの良さは、紙を選ぶが他に代わるものの無い無二のペンとなること請け合い。軸のデザインが豊富なので、好きなのをどうぞ。私はシズレ模様で金クリップの1006Xを愛用しています(頂き物)。

モンブラン #22

 これもヴィンテージになる。モンブランのラインナップでは入門クラスで、販売当時はよく売れたらしい。なのでオークションの流通量も比較的豊富。特に初期モデルはニブが驚異的に柔らかく、しなやかなサスペンションと特徴的な研ぎでまるで毛筆のような書き味を堪能できる。よく見るとセーラーの長刀研ぎペン先のような形をしているので、長刀研ぎが入手困難な現在、#22で毛筆感触を味わうのも良いかも。分解洗浄が容易なのも、メンテナンスを習得する点でお勧め。
 ただし、当たり外れはかなりでかい。

パイロット Elite95s

 昭和40年代に大橋巨泉のCMで一世を風靡したというEliteの復刻版。キャップを尻軸にさした時に筆記できる長さになるショートタイプデザインは国産独自のもので、キャップした時の長さはワイシャツの胸ポケットにちょうど良い。実売7,000円程度ながら14Kニブの本格派。パイロットのペンはキャップの感触に並々ならぬ熱意を感じる。こいつもキャップの感触が実に素晴らしい。書き味は、パイロット品質の変態風味。

良い万年筆ライフを

インクや紙にこだわりだすと完全に沼なので、好きなだけ嵌まってください。
それだけの価値がある世界です。
同好の士は多い趣味世界なので、情報が豊富なのも続けやすいしね。