鳩頭の空中散歩

あけましておめでとうございます

「師走」とは12月のことだけど、大学教員の12月は、後期中間試験を終えて、実習科目はぼちぼち終わる時期で、案外暇だったりする。まあ、分野によるだろうけど。
 筆者は資格系学部なので、国家試験までに少し間が空いた、小休止的な時期。学生が修羅場っていようが、こちらにはあまり関係ない(笑)

年末年始感はあまりなくて、
「あけましておめでとうございます」
は、教員が修羅場るこの時期の挨拶。新任者はもちろん、オリエンテーションやら授業準備やら。
「去年のを使い回せるから楽できるわー」
なんて油断していると、カリキュラムが変更になったりとか、割と痛い目を見る。

 今年度はさらに、科研費交付内定手続きが畳み掛け。
 前任校での研究成果の貯金があったから取れちゃったけど、地方弱小大学なので、科研費獲得が数年ぶりということで、アドバイス的なものを求められたので、良い機会だから忘備録的に自分用まとめ。

よく言われることで、実際に実感していること

とにかく書く

 宝くじのようなもんなので、買わないと当たらないし、書かないと当たらない。
「落ちて当たり前」
 くらいのつもりでいても良い。落ちて失うものは無い(とは言い切れないけど、ここはこう言っておく)。
 海外大型グラントのように、通っただけで一流研究機関から引く手数多、というような価値あるグラントではない。科研費は、自分の人件費を自分で出すことが出来ないので、海外大型グラントを狙えるような一流の研究者が科研費にかけるモチベーションは、推して知るべし。
 
なんて、偉そうなことを言える身分になってみたいものだ。

 同級生が在籍する某国立大学では、
科研費に応募しないということは、研究費は要らないということと見做し、学内研究費を配分しない」
 ということになっているそうで、こういうこと言われると、「仕方がないから出すだけ出しとく」ということになる人が増殖するのは、ある意味当然。

 つまり、科研費を書くモチベーションが決して高くない人は、上級にも低級にも結構いると考えられるわけで、本気で書けば、採択可能性は案外低くもない。
 それに、ポスドク級でグラントを取れるような人なら、学振を取っている。科研費若手研究に応募してくるようなPDは、学振レベルより一段落ちる。

科研費の価値は、実は思っているほど高くない


フォントと文字サイズは有効

 分野にもよるけど、審査員は膨大な量の申請書類を読むので、ほとんどななめ読みだそう。特に基盤(B),(C)と若手は一段階審査なので、
「じっくり読んでもらえれば分かる」
という書き方では、まず通らない。

 そこで、フォントサイズを12ポイント以上にする。行間を1.15〜1.25行にすると、より効果的。1行では行間が詰まりすぎて読みにくい。
 こうすると、書ける文字数が大幅に減るので、より少ない文字数で訴える文章力が問われる。

 2018年度に、申請書が現在のフォーマットに変わり、枠線がなくなって11ポイント以上に指定されるようになり、フォントサイズでの差別化はあまりできなくなった。
 そこで有効なのは、フォント自体を変えてしまうこと。明朝体よりもゴシック体のほうが、読みやすさは数段上。特に研究概要は、太字のゴシック体で書くことがとても有効。実際、概要が読みにくいと、本文には目もくれないこともあるそうなので、本文を読む気にさせるには、まず概要を読ませること。

 研究者界隈には伝統的にMac使いが多いが、「ヒラギノ角ゴシック」の書体の美しさは別格なのでオススメ。線の細さがゴシック体特有のうるささを軽減するので、とても読みやすい見た目になる。
 ヒラギノ明朝は、MS明朝に比べると、書体は美しいが線が細いので、明朝体ではヒラギノフォントはおすすめしない。
 Windowsでは、游ゴシックがヒラギノゴシックに近い印象。

オイシイ応募分野を選ぶ

 科研費の応募数は、分野によってかなり差がある。当然、応募者が少ない分野に応募するほうが、採択確率は上がる。
「少し視点をずらせば、こちらにも該当する」
 というマイナー分野があれば、少々掠っている程度でも果敢に挑戦すべき。完全に的はずれでなければ、「その分野ではユニークな視点」と、高評価を得られる可能性がある。

 私の応募の例では、ど真ん中の分野は薬学系だが、ちょっと視点をずらせば化粧品にも適用可能なので、生活科学分野の観点から研究展開を述べた。薬学分野に拘っていたら今でも取れていないと思う。
 だいたい、医学薬学系は、超優秀な応募者が多いので、まともに勝負には出れない。
 念の為、生活科学分野のレベルが低いと言っているのではない。


夢を語る

 そもそも研究とは、クリエイティブで夢のある活動なので、夢を語ることが大事。なので、少々風呂敷を広げても構わない。
 ただ、私個人的には、研究で夢を語れるのは研究者の権利なので、全人類のために貢献する、なんてことは微塵も思っていない。
「自分のやりたいことをやりたい放題やった挙げ句に、その結果が少しでも人の役に立てばいいね」
くらいにしか考えていない。
 風呂敷を広げるにしても、「人類の発展と社会貢献のため」なんてことを真顔で言う人や企業は、個人的にはあまり信用できません。

時事ネタは強い

 時事問題は、早急な解決の必要がある問題とも言える。また、時事問題をどのような視点でどのレベルで把握しているかというのは、問題認識能力。なので、時事問題に適切に切り込んでいれば、採択率はかなり上がる。
 ただし、例えば生命科学系では、近年はもっぱらCOVID-19だが、これは専門研究チームがハイレベルで組まれているので、そこと同じことをやろうとしてもお呼びではない。
 そこで、「ズラシ」のテクニックが必要になる。

 人文科学系では、教育とDXが熱い。

 研究のトレンドを掴み、「ズラシ」のテクニックで独自性をアピールする必要はある。
 SDGsは流行りだが、SDGs自体が概念的に曖昧な宗教なので、ゴールイメージをより明確に言語化できれば、それだけで勝機があると思う。

とにかく、「人に読んでもらう書類」を意識

 学生のレポートにも言えることだけど、読んでもらう書類であることを意識することが基本だと思う。

 フォントや行間の工夫は、「読みやすさ」のための工夫。
 夢と時事問題を語ることは、内容面での工夫。

 さらに内容で工夫するとすれば、文章のリズムは案外重要だと思う。名文を書く必要はないが、読んでいて楽しい文章というのは、リズムが良い。
 宮部みゆきブームの頃、流行り物嫌いの私は食わず嫌いをしていたが、機会があって読んだとき、内容の面白さもさることながら、リズム感の良さに驚いた。言われてみれば、英語論文でも、読んでいて楽しい論文は、独特のリズム感がある気がする。

吾輩は猫である。名前はまだない」なんて、最高にグルーヴィじゃないですか(笑)

「これは落ちる」と思うポイント

見苦しい

 フォントを変えるのは効果的と書いたけど、変えすぎは逆効果。アピールの度が過ぎるのは、減点。ていうかウザい。
 参考文献をやたらと書き連ねるのも、減点につながる恐れがある。研究背景の説明の引用には、せいぜい3本。政府広報などだと、説得力がある気がする。

論文実績が多すぎる

 無いのは論外として、多すぎてもまずい印象。自分の論文実績の引用は、多くても10本以内にしといたほうが、見苦しくない。だいたい、見苦しい文章は、自分語りが多すぎる(この文書然り)。

 しかし、「科研費がないから研究できない、研究できないから論文出せない、論文無いから科研費取れない」の無限ループの恐怖があるので、紀要でもレターでも学会発表でも、できるだけ直近で実績を持っておいたほうが良い。

新技術開発を目的・前提とした内容は不利

「開発に失敗したらどうするの?」ということらしい。
 開発を目的とする技術の基盤技術を説明し、「もし新技術開発に失敗しても、基盤技術があるので、代替手段を講じる」という記述があると、非常に受けが良い。すでにある技術の応用展開は非常に有利。
 戦略的萌芽研究や基盤(S),(A)クラスなら、革新的技術開発で採択されることもあるが、(B)以下の募集は、革新性はあまり期待されていない。

「それ、学内業務ですよね?」

 特に教育学研究で見られがちらしい。「学内で予算配ってやるべき教育研究で科研費を獲ろうとするな」ということらしい。風呂敷の広げ方がポイントか。


乱暴に、まとめ的な

研究内容は、案外二の次

 だってさ、今年の応募内容なんて、昨年とほとんど同じだよ?
 去年の審査結果が、研究課題は高得点で採択案件の平均点を上回っていたのに、次年度の居場所が決まっていなくて研究遂行能力で大きく減点されていた。つまり、研究内容よりも、翌年度の雇用状態のほうが評価上重視されたということ。研究内容なんて、二の次なんだな、と実感した。

 基盤Cと若手なら、「どれだけ読みやすい見た目で、読んでもらって面白いと思わせるか」で8割がた決まっているのではないでしょうか。就活における「人は見た目が9割」と同じだと思います。
 企業は、学生が大学で何を学んできたかなんて、実は全くと言って良いほど、気にしていません。新卒ピチピチを自分の会社で手垢まみれにしたいだけですから、大学で小賢しい学術知識を身に付けたことなんて、最初から聞く気ありません。

 さすがに科研費審査ではそこまで横暴なことはしていないでしょうが、「内容重視」に拘泥していると、あまり良いことはないと思います。




なんてことを、新入生オリエンテーションセミナーの係になっていたのに、3月30〜31日の、日向坂46東京ドーム公演の配信を見ながらダラダラと準備作業していたので、尻に火がついているので現実逃避的な投稿。
欅坂の万年2軍扱いから、乃木坂46でさえ実現していない東京ドーム公演を達成したエピソードは、実におっさん好み。
キャプテン佐々木久美の言葉の選び方は、あれ、実に参考になりますよ。